春嵐に翻弄されて… 〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。


 
 



     




平八への攻撃を庇ったそのまま、相手を追ったつもりが誘い出されたのだと気がついたのは、
ひらりとフェンスを越えて駆け下りてから。
まだまだ視野が狭いというか、頭に血が上ると突っ込んでしまうところが抜けぬというか、
いつもがいつもなのが、こんな場でも出てしまったらしく。
眉根をしかめ、ちいと舌打ちをしつつ、得物の警棒をぐっと握り直す久蔵で。
そんな心情になっていること、遠目でも駆けようや何やで察しがつくのか、
平八もまた苦々しいお顔を隠せない。

「日頃はせいぜい追い払う程度の やっとう(活劇)ですからね。」

もしくは相手が中途半端な学生やチンピラな場合が大半なので、
ちょっとばかり反射がよく、殴りつける勘もいいというだけの
その実、大して腕力はない彼女らの振るうそれでも、
威嚇の一撃には十分足りており。
逆に言えば、だからこそ
公的処分もぎりぎり“正当防衛”で対処できてもいる訳で。

「久蔵殿もその辺りは判っていると思うのですが。」

そうかといって今更 “御免なさい、人違いです”と正体を明かして納得してもらえるかどうか。
第一、相手が諏訪の何とかだという 事情というか背景は、
平八こそ とくと聞いたが久蔵には全くの全然通じていないので、

 “すんなり引きはしないでしょうね。”

ああいうところは昔のあの人のまんまなんだから もうっと、
強い相手との手合わせが究極の切望だった、
他には何も要らないし、そのためなら身を粉にして立ち回ったっていいとし、
百姓の味方となって野伏せりとの合戦にも参加したような、
何とも風変わりな、でもちょっと切ない価値観で生きていた
生粋のサムライだったのを思い出す。
迎撃や掃討の相棒たる七郎次がいない今、
せめて自分が何らかの助けをしたいと思う平八だが、
同じく久蔵の窮地を見たイブキらとしては、
これ以上 非力なお嬢さんを危険に近づけるわけにはいかぬということだろう、
こちらの二の腕をぐいと掴んだままな手は簡単には解けそうになく。

 “ここでややこしい撃退ツールを持ち出すのは
  なんか筋違いな気もするし。” (まったくだ)

例えば常套手段である静電気を利用した電撃発生装置でビックリさせて
瞬間的に手を離してもらえても、
そんなもの一旦だけで、他の方々が寄ってたかって来るのは明白。
そう、今やなりふり構えぬか、
どこにこんなに潜んでいたのだろうと思うほどの
グレーな正体したお兄さんたちおじさんたちが姿を見せており、
近所の住人を装った春物ブルゾン姿の人から、
電話線点検系 作業着の人、訪問販売系スーツ姿の人、
恐らく、入学式への増員となった警備の人も何人か混ざっている模様。
そういった方々が、次々にフェンスを越えて
紅ばらさんの救出に向かってくださっているのだから、
自分は大人しくしているのが重畳であるらしいとそこは飲み込めている平八だが、

 “そのお助けが久蔵殿へ届くかどうかですねぇ。”

随分と流動的で、混乱必至の現状なれど、
ざっと周囲を見回し、状況把握を怠らぬ基本はこなしておいでの彼女らしいので、
学園の敷地内から駆け下りてくる陣営は少なくとも味方だくらいは察しているだろう。
ただ、もう次の展開が動き出しており、
待ち構えていたクチの輩たちが次々に木刀らしい得物を振るって来ている。
さすがに先程回収されてった連中のような、
破天荒なほど殺傷性の高い得物での攻撃は控えているようだが、
切っ先が霞むほど素早い太刀筋には平八もゾッとし、
難なく掻い潜れている久蔵なのに、見守るこちらは堅く握った拳がほどけないままだ。
避け切れず、警棒を合わせた相手のそれを跳ね飛ばそうとするが、
いつものように高々と強く避けることは出来ておらず。

「あああ、どんだけ強い人たちなんですよう。」

こちらから人違いだと伝えられないのですか?と、
傍らのイブキを初めて頼るように見やる彼女の言いようへ、

「そうと声を掛けても信じるかどうか。」

ああまで似ていてはねぇと、困ったように渋面を作る。
そんな彼なのへ、

 “もうもう、この節穴揃いがっ。”

何で見分けられないの、あんな可愛らしい女の子。
あなた方はあなた方のほうで、
さっきのうら若い男の子を次期様として敬っているんでしょうにと、
地団太踏みたくなったほど。
そうは言っても、

「がはっ!」
「ぐっ。」

正式正道な剣術ではなく、
バレエという舞踏で身についた足さばきや身ごなしが、
相手へは微妙に異質で合わせにくいか。
繰り出される切っ先を絶妙な間合いや柔らかな仕儀所作で掻い潜り、
その相手を日頃よりはやや強めに意識して振り抜いた警棒で次々に打ち据え、
取り囲まれかかる陣営から何とか脱出しようと、
なかなかの拮抗でもがいているものだから。
そのような実のある抵抗が、
単なるお嬢様の仕業とはやはり思えぬのも道理かもしれなくて。

「…いっそ全員打ち据えて平らげた方が早いのかなぁ。」
「もしもし?」

ひなげしさんの呟きがちょっとあんまりな言いように聞こえたか、
そちらもそちらで、こんな時だというに
ウチの手の者をどれほど低評価してますか?と言いたいような、
そんな反駁声を返すイブキくんだったりし。

「だって、援護の皆様、全然間に合ってないじゃない。」
「う…。」

割って入って待て待てと引き分けたいのだろう、こちらからの援軍は、
されど、巧妙に向こうの顔ぶれに立ちはだかられて剣を合わせられ、
そんな結果、久蔵が取り囲まれている陣営へは近づけもしないままでおり。

「こうなったら、何か発火物でも打ち込んでやろうかしら。」
「わあ、それだけは…っ!」

事後処理で言い分けの利かないものを投じるのはどうかご容赦と、
制服のスカートのポッケへ手を入れかかる平八の手を掴みかけたその間合い、

「…あ。」

そんなひなげしさんの総身が凍ったようにて停止する。
何かとんでもないものを見たらしく、
え?と肩越しに背後の“現場”を振り返ったイブキくんが、
双眸を限界まで見開いたほど驚いたのは、

 久蔵殿が片やの脛を掴まれ、ぶんっと路上へ放り投げられていたからだ。

いくら十代の、しかも痩躯な女の子が相手であれ、
四肢のどれかを掴んだだけで総身が浮くほど持ち上げるのは大変な仕儀。
しかもそのまま数m先へ投げて抛るだなんて、
横綱級の相撲取りでも出来るかどうかという怪力無双ぶりであり。

 「く…っ。」

無理なひねりなどは加えられなかったか、
中空にてその身を半回転させて平衡を保ち、
手足四肢を地につける格好で柔軟に着地した久蔵もまた
見事なバランス保持を見せはしたが。
着地した位置からズズズッとすべりにすべり、
その位置が相当下がってしまったほどに、放られた力は凄まじかったようで。

「久しいの、久蔵よ。」

怪力の主は、だが、
長身ではあったが山のような筋骨隆々の壮年ではなく。
彼女が知る壮年たちの代表、五郎兵衛や勘兵衛よりずいぶんと年嵩なおじさまで。

 “……?”

今は島田の久蔵さんであることも忘れ、
誰?と小首をかしげるほど素に戻っていたお嬢様だったりするのである。




 to be continued. (17.04.13.〜)





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 *おっかないおじさま登場です。
  さて、どのくらいで誤解が解けるのか。
  それとも打ち負かしちゃいますかねぇ?

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